新人カジノディーラーとして、ようやくお客さんを相手にしたゲームに入ることが出来るようになった。
入れるとようになったとは言っても、まだ、先輩ディーラーのようにすべてのゲーム、レートのテーブルではなく、お客さんの少ない限られたテーブルで、しかも、黒服の監視のもとだけなんだが。
これはプロディーラーを目指す者誰もが通る道なので仕方のないことだが、ゲームを進めることに必死になっているため、すべてが目に入っていないのだ。
ディーラーにとっても見えていないところもあるため、テーブルの外から黒服によってミスにならない様に補ってもらわなければならない。
21時以降になると、お客さんが増え始めて黒服たちも忙しくなってくると、見習いディーラーを監視しているどころではなくなり、こうなれば一人で場面を完璧にこなしていかなければならなくなっていく。
現在では、もし何かあった場合には、店内にあるセキュリティーカメラで確認をしてどうなっていたのかを確認できるのだが、オレが始めた当時にはこういった設備が施される前の時代であったため、後から確認のしようがなかった。
新人ディーラーが説明をしても、お客さんが怒りだしてしまえば何を言っても通らない状況になり、お客さんの言うがままに近い形で処理されて問題にならないように対処をしていた。
お客さんにとってのチップは現金と同じなため、ディーラーミスによってチップを持っていかれれば怒りだすのも当然のこと。
新人ディーラーにはこのことを肌で感じることが出来ていないため意識が低く、場数をこなして経験値を増やしていくしかないのだ。
「バカラ」をまいている新人ディーラーがミスを起こしてしまった。勝敗はバンカーが勝ちと決まって、プレイヤー側のチップを下げようとしたときに、誤ってバンカー側のチップをすべて下げてしまったのだ。
当然、お客さんが大きな声を出してオレのチップを返せと言ってくる。「バカラ」をまいていた新人ディーラーは間違いに気がつき、もともと賭けていた通りの賭け金を元に戻していったが、お客さんは納得をしない。
「オレが賭けていたのは$200ではなく$300だった」と主張してくる。こうなったときに新人ディーラーが「いえいえ、間違いなく$200でした」と言っても後の祭りで、お客さんがゴネだすと他のお客さんにも迷惑がかかり、お店でのイメージも悪くなっていく。
こうならないように黒服が間に入り、丁重に謝ってまるく収めるためにお客さんの主張通りに$300を戻して$300の配当をつけていく。
まあ、変な話だが、当時の裏カジノでは「ゴネタもん勝ち」みたいなところがあり、なるべく問題にならない方へ持っていくことが多い。
当然ではあるが、このミスを店舗の上層部からきつく新人ディーラーへとお叱りがあり、暫く場面からは遠ざけられ、その日は完全に干されていくだろう。
ミスは誰もが通る道なので、こういったこと経験して新人ディーラーが育っていくのだ。。。